贈与とは限らない(2)

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死因贈与は相続税?…契約書と申告書なしでも贈与税!」



贈与とは限らない(2)
ある大手製紙会社の社長は、ワンマンオーナーです。絵画収集で有名な彼は、A・B・Cの父親でもありました。
昭和63年…Aさんは、自分が役員である会社から2億円を借り入れて、NTTの株式に全額投入しました。ところが株価は、値下がりを続けます。株式投資は、失敗したのです。
Aさんは、会社から借りた2億円を、返済できなくなりました。Aさんの会社にとっては、役員貸付金の不良債権化です。取引銀行から見れば大問題です。
そこで父親が、〈出してやれ〉‥と、自分の会社の経理担当に指示します。

A・B・Cで32億円


平成2年…父親個人の預金からAさんの口座に、2億円が振り込まれました。Aさんは、会社に借りた2億円を、返済することができました。
同じく平成2年…Bさんは、会社からの借金10億円で、株式投資をしました。そして、Aさん同様に、失敗します。父親は、再び〈出してやれ〉‥と、指示しました。
平成3年…Bさんの口座に、10億円が振り込まれました。
Cさんは、株式投資に失敗したため、20億円の借財がありました。そして、これも父親の《出してやれ》の一声で、20億円が振り込まれました。

32億円は贈与か否か


父親がA・B・Cの子に渡した金額は、合計で32億円になります。この32億円ものお金は、どのように課税されるのでしょう。《出してやれ》は、『贈与』を思わせますが…。
A・B・Cの誰もが、贈与契約書や金銭消費貸借契約書等の書類を、作成していません。そして、「贈与税」の申告書も、提出していません。父親は、子への返還請求をしていません。
果たして32億円は、『贈与』なのでしょうか…。不明のまま、年月が経ちます。

32億円は相続財産か


平成8年…父親が死亡しました。そしてこの32億円が、「相続税」の税務調査で、問題になります。
A・B・Cは…贈与契約書もないし贈与税の申告もしていないけれど、父親から返還を求められたことは、一度もないのです。そこで、〈32億円は贈与である〉‥と、主張します。贈与されたお金だから、「相続税」の課税対象ではない、というわけです。ただし、「贈与税」は払っていません。
しかも、今から「贈与税」を払う必要はありません。贈与を受けたのは、贈与税の時効になっているため、税務署は「贈与税」を課税できないのです。

税務署の主張


対する税務署は、次のように主張します。
(1)父親が救済したかったのは、A・B・Cではなく《取引銀行から返済を迫られた会社》であり、32億円は返済資金として渡した。
(2)贈与契約書がないので、〈贈与の合意はない〉と、考えられる。
(3)32億円は贈与ではなく、返済のための立替金(貸付金)である
(4)父親は、自分が死亡した時において〈A・B・Cへの立替金を免除する〉という意図だったのだから、立替金を免除するという死因贈与契約である。
(5)32億円は、死因贈与契約により「相続税」の課税対象となる

相続?


贈与でなく死因贈与ならば、遺言による遺贈と同様、「相続税」の課税対象になります。税務署は、何としても、課税したいのでしょうね。
しかし…32億円は、銀行を通じて確実にA・B・Cの口座に振り込まれました。父親の存命中に、A・B・Cが《自分のお金》としてキッチリ確実に管理して、借入金の返済にキッチリ充当したのです。
税務署の〈死因贈与だから実質は父親の遺産〉‥という主張は、かなり苦しいものがあります。それでも税務署は、苦しい理屈を頼りに、32億円に対して「相続税」の課税処分を行ないました。

贈与!


平成17年3月30日…静岡地裁は、次のように判決を下しました。
(1)32億円を渡したとき、父親は経理担当者に《出してやれ》と言ったが、贈与に該当するかは明確ではない。
(2)経理担当者もA・B・Cも、〈《出してやれ》は贈与の趣旨〉であると、理解した。
(3)A・B・Cは、返還を求められたこともなく返還する能力もなかったのだから、《立替金》とはいえない。
(4)「贈与税」の申告をしないことは、〈贈与がない〉ことにはならない。よって32億円は、贈与である。
裁判で、〈32億円は贈与である〉‥と、認められたのです。A・B・Cの主張が、マンマと通ったわけです。32億円は、全く課税されずに、親から子へと流れたのでした。

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